うさぎと出会い

足音

指示を出す声

ボールの蹴る音

色々な音が混ざり合っているグランドに
女性特有の高めで落ち着いた声が響いた。

「これより1時間、昼休憩とします。
 午後からは紅白試合をしますので
 そのつもりでいて下さい」

選手達の道標となり指示を出したり
戦略を考えたり、選手達の弱点を見つけ出し
修正を加えたり、と、全体を見渡せ冷静さ、
頭の回転、ゲーム経験、技術、そして監督としての才能
全てを持ち備えた監督
西園寺玲の言葉によって、コートで技術を取得していた
選手達は、その場離れ各々のカバンの置いてある更衣室に
入りタオルと弁当を手に持つと、少しでも夏のきつい日差しと
暑さから逃れる為、木々の陰で食事を取り始めた。

雑談の続く食事の中、子供特有の高い声が
ひときわ大きく響いていた。

「この、炊き込みご飯のおむすび美味しいです!」

「気に入って貰えたみたいで嬉しいよ」

膝の上には自分のお弁当、片手には話題になっている
おにぎりを持ち正面に座っている人物と話をしていた。

「先ほど頂いた竜田揚げも美味しかったですし、
 渋沢キャプテンはお料理が上手なんですね・・・・
 羨ましいです・・・・・・」

「そんな事ないさ。ちゃんは上手だから
 何も心配する事はないだろう」

「そんな事ないですよ・・・お母さんや渋沢さんの
 方が何十倍も美味しいです!
 ね、天城君」

正面の渋沢との会話に、1人では勝てないと思ったのか
左に座っていた天城に同意を求めると

「まぁ、どっちも美味しいからいいんじゃなないか」

いきなり話しを振られたのも関わらず、ハッキリとした言葉に
が納得をし、その話題は終っていったががカバンから
リンゴを取り出し果物ナイフで皮を剥こうと構えるが
の行動に気付いた渋沢がリンゴとナイフを渡す様に
言うとから両方受け取り、皮を剥き始めた。
4等分に切られたリンゴが出来上がると、は渋沢から
ナイフを返してもらい自分達と離れているメンバーの所にも
リンゴを持って移動し

各場所に行って、が持ってきたリンゴを切り分け渡していき
最終にはUー14の3人の所にいた。

若菜に言われるまま上に座ると、持っていた果物ナイフで
リンゴを剥き始めた。

が、誰が見ても危ない手つきで皮を剥いている
声をかけ様と思うが、声をかけた事で手を切られては大変なので
黙っての行動を見ていたのだが体のいらない所に
力が入っている見たいだった。

いつ手を切るか解らないをハラハラ・ドキドキなしながら
見守っていると、急にの声が耳に入った。

「あぁ!!!」

切ったのか!
と思い、のリンゴを持つ手を見るがどこにも赤い部分はなく
不思議に思いの声からいち早く我に返った郭が尋ねる

「どうしたの?ちゃん」

言葉をかけられたは郭の顔を見るため、リンゴから視線を外し
郭の顔を見ると

「リンゴの皮が途中で切れてしまったんです!!」

涙声で郭の質問に答えただが声だけではなく
表情までもが今にも泣き出しそうな表情をしていた

「今回も切らす事無く切れると思っていたのに・・・・・・」

残念そうに呟くに郭はため息を付き

「まぁ、切れてしまったものは仕方ないよ。
 後は俺が剥くから」

危なくて見ていられない
と言う本音を隠しながらの言葉にから差し出された
リンゴを受け取ると、半分ぐらい皮が残っているのも関わらず
4等分にリンゴを切ると、素早く芯を取り除き
何か細工をしているのかリンゴの皮をVの様に切り落とすと
リンゴを持つ手がに向って伸ばされた

「はい。食べるでしょ」

「え?」

郭の言葉にが聞き返すと

「結人や一馬の事は気にしなくて良いから」

郭の言葉には名前を呼ばれた2人を見ると
の声にオロオロしていた一馬は冷静さを取り戻し
郭の言葉に頷き
結人はの声で自分のバックの中からバンソウコを
探していた手を止め、
の頭を撫ぜながら微笑んだ。

「じゃ、遠慮なく頂きます」

言葉と共に郭の手からリンゴを受け取ると
細工がしてある事に気付き

「うわぁ・・・このリンゴうさぎさんの形をしてるんですね」

色々の方向から見て愉しんでいると、一馬、結人
の順に渡されたが、この2人のリンゴは全体的に皮が
剥かれており、なんの細工もしてなかった。

どうやら、だけの特別モノだったらしい

4人同じくリンゴを食べていると、一馬が何かに気付いた様に
に声をかけた

ちゃんはリンゴは好きなのか?」

全身で美味しいと表現していたが一馬の質問に
頷き、

「大好きですよ!」

「なに?果物の中で一番好きなの?」

の肩ぐらいの高さから結人の声が聞こえ
会話に加わった

「はい。一番大好きなんです」

「理由は?」

皮の片付けをしていた郭も会話に加わり

「私が、風邪を引いたり熱を出したすると
 将が食べさせてくれたんです」

ちゃんにとっては思い出の食べ物と言う訳だ」

思い出となってしまった出来事を思い返しながら
紡がれた言葉に郭が感想を言うと

「そんな大げさの事じゃないです!
 それにリンゴだけじゃなくて桃も好きですし」

郭から言われた言葉はに取っては大きな言葉で
恐縮しながら言葉を返すと結人に髪をくしゃくしゃに
する様に撫ぜられ、一馬には苦笑、郭はナニかを悟った様に
微笑んでいた。

それから、結人に抱えられる様に膝の上に乗せられ
4人で会話を愉しんでいると西園寺監督の声が
かかり休憩の終了を告げた。

午後から紅白試合が行われ

オレンジ色の光が差し込もうと太陽が変化し始めた頃、
女性の声が響きグランドに居る少年達に届くと
ボールを追い掛けるのを止め声をかけた女性の周りに集まると、
今度の練習内容が告げられると解散が言い渡され、
集まっていた少年達はいっせいに更衣室に移動を始める人が要る中、
更衣室とは逆にさきほど使われたボールを磨いている
少女へと向かっている数人の人物がいた。

お互い睨みながら同じ歩幅で歩くが、後ろから走って通り過ぎて行く
人物がいたが敢えて無視をした。
その結果誰よりも早く声をかけるのが出来たのは
走っていた少年で

ちゃん!今日一緒に帰ろう!」

言葉と共に抱きついてきた少年の勢いで前のこけそうに
なったが、両手を付きなんとか耐えるながら

「藤代君・・・お・・も・い・・・・です」

「ハラも減ったからどこかで食べて帰るなんてどう?」

「あ・あの・・・・」

藤代の体重に耐えて言葉を言うと
急に重みがなくなると、声が聞こえた。

「何してるんだよ。フジシロ」

「いい加減離れなよ、ちゃん苦しがってるのが解らないの」

手に付いた砂を払っていると、2種類の声の主がの膝に
付いた砂を払いながら

は俺と帰るんだから、藤代も郭も大人しく帰ったら」

ちゃんは俺と帰るから、藤代も椎名も帰ったらどう」

同じ内容の言葉を聞き、を挟み睨み会っていると
ボール磨きを手伝っていてくれた将が片付けを始め
自分との荷物を持って来ていた。

「あ、あの・・・今日は寄る所がありますのでスミマセンが
 失礼させて頂きますね。
 本当にごめんなさい翼さん藤代さん郭さん」

申し訳なさそうに断りと誤りを入れ、将が手に持っている
カバンを受け取ると、深々と礼をして
将と共に走って校門を通り抜けていった。

必死に走り駅に着くと、将に帰りは電話をして
将と一緒に帰ると約束して駅の中に入って行った。

キップを買い、ホームで電車を待ち、来て電車に乗り込むが
帰宅のラッシュと重なり、身長の低いに取ってはつり革に
掴まれる事も無く、カバンや背中に押されながら電車の揺れに
耐えていたのだが大きく揺れた為、足に力を入れるだけでは
体を支えられず、無意識に何かを掴み揺れに耐えていると
頭上から言葉をかけられた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。スミマセン」

声が聞こえるのを頼りに視線を上げていくと
身長の高い少年がを見下ろしていた。

「いえいえ、僕は大丈夫ですからお気にせず。
 それより、もう暫くしますともう一回大きな揺れが来ますので
 捕まっていて良いですよ」

穏やかな表情で言葉を言うと、が持っているカバンの
ヒモ部分を見ていた。

本来なら慌てて離すべきなのだが、少年の忠告に従い
ヒモを掴んでいると、言葉通り大きな揺れが来て
人の揺れに倒れそうになると、声をかけてきた少年が
手を差し伸べてくれ、何とか乗り切ると
目的の駅に着き、支えてくれた少年に礼を言おうと
顔を上げると、出入り口の方を指差し

「僕、この駅で降りるんですよ」

と言う言葉に頷き

「私もこの駅で降りるんです」

微笑みながら言葉を返すと

「じゃぁ、一緒に降りましょうか」

誘いの言葉をかけられ、は笑顔で返すと
電車の速度が遅くなり、やがて停止をすると
2人は人を掻き分けホームに降り立った。

暫く歩いた所で、少し広いスペースに辿り着くと
お互い向き合うとが頭を下げ礼を言った。

「本当に助かりました。ありがとう御座いました」

「いえいえ、僕は何もしていないので
 気にしないで下さい。ところで1つ聞きたい事が
 あるのですがいいですか?」

「はい」

「お名前を聞かせてくれませんか?」

「風祭です」

ちゃんですか。いい名前ですねぇ
 僕は須釜寿樹と言います」

須釜と自己紹介した少年は終始笑顔で
を見ていた。

も、笑いながら自己紹介をし、お互い
好印象を与え、その場で別れると

「僕はちゃんの事を見ていたのですが
 アレでは気付いてないようですねぇ」

階段を上っていくを見送りながら、須釜の独り事
は、人ごみと人々の足音や話声によってかき消された。

そんな言葉を言ったことすら知らない
駅を出ると、小走りにフットサル場に向うと
誰かが試合をしているのか、応援の声と指示を出す声が聞こえ
人が集まっているコートを見てみると、
の待ち人が楽しそうにフットサルをしていた。

楽しそうにフットサルをしている待ち人を見ていると
自分も楽しくなり、他の観戦者と一緒に
見ていると、試合をしている待ち人がに気付き
大きく手を振った。

その行動を目にしたは嬉しそうに笑いながらフェンス越しに
小さく手を振ると、相手も笑ってくれた。

暫くして、試合を観戦していると、どうやら勝ったらしく
まんべんの笑みでに近寄ってくると、
膝を折り、と視線を合わせると抱きしめ、
抱き上げた。

「会いたかったよちゃん!」

「私もお会いしたかったです。周防さん」

抱き上げられたも周防の肩に手を置き
返事を返すと、周防の横から声が聞こえた。

「周防の探していた小さなお姫様とはこの子だったのか」

感心したのか、呆れたのか区別の付け難い声に

「なんだよ。いくら可愛いからってヤスにはやらないからな。
 ちゃんは俺のお姫様なんだからな!」

俺のと宣言され、恥ずかしくなったは赤くなった
顔を隠す為、周防の首に力一杯抱きつくが
2人にはの気持ちが解ったらしく、
周防は嬉しそうに笑いの背中を撫ぜ、ヤスと呼ばれた
人物はそんな2人の様子を見て苦笑し、

「まぁ、次の試合まで休憩してるから、好きにしてくれ」

そういい残すと、チームメイトとどこかに行ってしまった。

「さて、邪魔者は居なくなったしサッカーしょうか」

未だに、抱きついて離れないに、話し掛けると
もようやく首に回していた手を離し、周防から降りると
2人してボールを蹴り始めた。

そんな中、も少しはボールに慣れてきたのは
少し離しながら蹴り返していたが、アルの言葉に
周防に転がっていったボールが返って来なくなってしまった。

「帰る道に怪しい人物が出た!?」

大きな声で聞き返してくる周防に驚きながらも

「はい」

と返事を返すと、地面に転がっていたボールを広い
の元にかけ寄ってくると

ちゃんは大丈夫だったか!?」

真剣な表情での両肩を掴みながらの言葉に

「大丈夫です。助けて頂きましたから」

少しでも安心させようと笑おうとするのだが
周防の顔が近く反対に赤面してしまい
頭の中が混乱してき始め言ってはいけない言葉まで
言ってしまっていた。

ちゃん。これからは俺が送って帰るから
 独りで帰ったりするなよ」

周防の言葉を聞き、真っ赤になりながら
頷く事しか出来ないに、肩を掴んでいた手を離し
頭を撫ぜられ、はさらに真っ赤になり俯いてしまった。

それから、2人で会わなかった時の話をしていると
直ぐに時間はたってしまい、帰宅の時間となってしまった。

言葉通り周防がを送って行き、家の前までくると
別れの挨拶を言い合いは中に入って行った。

電話もなしに帰ってきたに驚きなからで迎えてくれた
将に、今日合った事全て話すと

「親切な人で良かったねぇ」

と笑顔で感想を言った。

それから、お風呂に入って残っている宿題をして
布団に入ったが、今日会った事を思い出すと
鼓動が早くなり、体温が上がって中々寝れない夜になった。